ニュース概要
ENEOSホールディングス傘下のJX金属は2024年6月18日、次世代半導体向けCVD・ALD材料の本格生産に向けた能力増強を決定したと発表した。
JX金属は2024年2月に「CVD・ALD材料事業推進室」を新設し、同材料の早期事業化を推進。新規高純度CVD・ALD材料の量産ラインを構築し、顧客へのサンプル出荷を進め、良好な評価を獲得していました。このたび、本材料の本格採用により急速な需要拡大が見込まれることから、当社は本材料の生産能力の増強を決定しました。
東邦チタニウム*の茅ケ崎工場は24年度下期、JX金属の日立事業所は25年度上期を目途に生産設備を導入し稼働を開始する計画とのこと。あわせて当事業の今後の展開に向けた新規プロセス開発や新規材料開発に向けた設備強化を推進するとのこと。
*JX金属が東邦チタニウムの株式の過半数を保有。
【出典】
次世代半導体向けCVD・ALD材料の本格生産に向けた能力増強の決定について | 2024年度 | JX金属 (jx-nmm.com)
JX金属・東邦チタニウムが生産するCVD・ALD材料は?
🐇が調べてみたところ、以下の特許が見つかりました。モリブデン(Mo)を主原料とした、塩化酸化物(オキシクロライド)前駆体のようです。
「高純度モリブデンオキシクロライド及びその製造方法」
2020-12-14 Application filed by Jx金属株式会社, 東邦チタニウム株式会社
純度が99.9995重量%以上であることを特徴とするモリブデンのオキシクロライド。MoO3とCl2とを反応させてモリブデンのオキシクロライドを反応室で合成し、合成したモリブデンのオキシクロライドの気体を冷却して回収室でモリブデンのオキシクロライドを析出させて、モリブデンのオキシクロライドを製造する方法であって、前記反応室と前記回収室との間に不純物トラップを設けて、該不純物トラップにおいて不純物を除去することを特徴とするモリブデンオキシクロライドの製造方法。本発明は、高純度モリブデンオキシクロライド及びその製造方法を提供することを課題とする。
WO2021171742A1 – 高純度モリブデンオキシクロライド及びその製造方法 – Google Patents
背景
先端ロジックなどにおいては、銅(Cu)を用いた多層配線構造が取り入れられています。多層配線構造においては、層間絶縁膜としてのSiO2などの誘電体中に銅の配線を埋め込んで配線層を形成し、それを何層も積み重ねていく構造を取ります。また、銅の誘電体膜中への拡散を防ぐため、銅配線と絶縁膜の間に「バリア層 (Barrier layer)」と呼ばれる、TaやTaNなど安定な金属・金属化合物の層を形成します。そのような多層配線構造において、上下の配線層同士を接続するための垂直な層間配線・インターコネクト配線・コンタクトプラグが必要となります。
なぜモリブデンなのか
*間違いがありましたらコメント欄にてご指摘いただけますと幸いです
バリア層を必要としない
モリブデンは誘電体に対する拡散性をほとんど、あるいは全く持たないため、バリア層が不要となる。
ALDで成膜可能
モリブデンは原子層堆積法(ALD)で成膜できるため、高アスペクト比な凹部に均一に金属層を形成できる。
前駆体にフッ素を使用しない
インターコネクト材料としてのタングステンの前駆体には通常、フッ素(F)を含む六フッ化タングステン(WF6)が主に用いられているが、このフッ素によりデバイス不良が引き起こされる恐れがある。モリブデンの場合はフッ素を使用しない前駆体を用いた成膜が可能なため、このような不良を回避できる。
用語解説
CVD:
Chemical Vapor Deposition(化学気相成長法)の略。化学反応を活用して薄膜を形成する方法。
ALD:
Atomic Layer Deposition(原子層積層法)の略。原子層レベルで膜厚を制御して薄膜を形成する方法。
参考資料・文献・記事
次世代半導体向けCVD・ALD材料の本格生産に向けた能力増強の決定について | 2024年度 | JX金属 (jx-nmm.com)
組織改正について | 2023年度 | JX金属 (jx-nmm.com)
WO2021171742A1 – 高純度モリブデンオキシクロライド及びその製造方法 – Google Patents
ムーアの法則の継続へ、インターコネクトの新材料として注目されるモリブデン | TECH+(テックプラス) (mynavi.jp)
Properties of ultrathin molybdenum films for interconnect applications – ScienceDirect
銅(Cu)配線の微細化と抵抗値の増大:福田昭のデバイス通信(282) Intelが語るオンチップの多層配線技術(3) – EE Times Japan (itmedia.co.jp)
半導体デバイスにおける多層配線技術の進展と今後の展開|リンク
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